2015年1月19日月曜日

ナショナルデータベース(NDB)活用の現況と今後 第2回(全3回)

2. NDBを活用した研究成果の事例

 第1回に続いて、NDBを活用した研究成果としては既に多くの報告書や学術論文などが公表されており※5、そのうちいくつかは実際の政策立案等の場面で活用され始めています。ここでは、その研究目的の視点から下記の4つに分類していくつかの成果をご紹介します。

(1) 全国患者数の推計の例

 久保田・佐藤・大場ら(2013)の研究では乾癬の疫学研究を行っており、日本では人口の0.3%にあたる約43万人が乾癬に罹患していると推計しています※6。

 また、大日・菅原(2013)は、1年分のNDBを用いてインフルエンザ、水痘、感染性胃腸炎、マイコプラズマ肺炎、細菌性髄膜炎など様々な感染症についてレセプト病名から患者を抽出し、都道府県別の罹患率、入院率を推計しました※7。

 全国的な患者数の推計としては、厚生労働省が3年ごとに実施している「患者調査」がありますが、これは9月の1ヵ月分について一定割合で抽出した医療機関に調査票を配布・回収して集計した結果から推計しているため、季節ごとに罹患率が異なる疾患や、患者数の少ない疾患については実態を把握するのが困難になると考えられます。

 この点、NDBは悉皆性が高く、より実態に近い推計ができることが期待されます。保険病名(患者や治療の実態と関係なく診療報酬請求のためにレセプトに記載されるような病名)の問題はありますが、病名の定義次第でそれなりに正確な推計が出るものと考えます。

(2) 診療行為・医薬品等の実態把握

 奥村・野田・伊藤(2013)は、NDBのサンプリングデータセット※8を用いて抗精神病薬の処方実態を分析し、3剤以上併用するケースが入院患者の約42%に上るという状況を明らかにしました※9。

 また、飯原・吉田・岡田他(2014)も、サンプリングデータセットを用いて運転など禁止・注意医薬品の使用実態に関する研究を行いました。その結果、何等かの医薬品が投与された外来患者のうち、運転当禁止・注意医薬品が投与された患者の割合は25歳以上で73%に上ること等を明らかにしています※10。

 特に抗精神病薬の使用実態については、日本における多剤投与が諸外国に比較して多いことがかねてより指摘されており※11、NDBを活用してその実態が明らかになったことも影響してか、平成26年度の診療報酬改定にて、多剤投与※12については処方料減点や、精神科継続外来支援・指導料の算定不可等が導入されました。NDBの活用による定量的なエビデンスは、診療報酬改定議論等においても今後重要性を増すものと考えます。

なお、(1)のような「患者数」の推計と異なり、診療行為や医薬品等の使用実態(特に請求実態)については、NDBでかなり正確に捉えることが可能です。サンプリングデータではない悉皆性のあるデータであれば、それをもって全国値であるとほぼ言えるでしょう。

サンプリングデータセットの場合は1ヵ月分のデータのみになるため、季節変動のある症例などの実態把握には不向きなほか、治療の継続性(複数月に跨るようなケース)については検討ができません。しかし、サンプリングデータセットでは探索的研究が認められているため、研究の切り口を柔軟に検討できる点はメリットと言えます。

(3) 医療費等の推計

 厚生労働省では、難病および小児慢性特定疾患の患者に対する医療費助成制度の見直し行って来ており、平成27年1月1日からは両制度の見直しに関連した法律が施行されます。厚生労働省ではこれらの制度を見直す過程で、受給者数の変化や医療費・公費負担額の変化についてNDB研究の成果を用いています※13,14。法律の改正にもNDBの研究成果が活用されていることが分かります。

(4) 地域医療計画への活用

 藤森・松田(2012)は、地域医療計画のためのNDB活用の実際について、福岡県のデータを用いてデータベース構築、指標作成などの手法をまとめています※15。

 各都道府県の地域医療計画が次に策定されるのは平成30年度になりますが、それを待たずに地域ごとの医療ニーズの客観的データに基づいて見通しを立て、医療機能ごとの医療の必要量を示す地域医療ビジョンを策定することが求められています※16。これに関連して平成26年10月から始まった病床機能報告制度では、NDBを活用して医療の内容に関する項目の集計作業が実施される予定となっています。


第3回へ続く...

第1回はこちらをご覧ください。


<注釈>
※5 厚生労働省 第16回レセプト情報等の提供に関する有識者会議資料「レセプト情報等の利活用の促進等について」平成25年9月20日(平成25年9月以降に公表された成果はデータが提供された研究者の情報(氏名、所属、研究テーマ)からPRRISM調べ。) (http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000023457.pdf)
※6 久保田潔、佐藤嗣道、大場延浩他「ナショナルレセプトデータベースの活用可能性を探る-乾癬の疫学研究から-」日本薬剤疫学会 2013:39
※7 大日康史、菅原民枝「平成25年9月2日厚生労働省発保0902第7号に基づく感染症の患者推計報告書」(2013年12月)および大日康史、菅原民枝「RSウィルス感染症の医療経済学:NDBを用いた正確な患者推定」Fetal & Neonatal Medicine 6(1) 28-31
※8 1ヵ月分のレセプトデータに対し高額レセプト等を除去した上で1%を抽出・匿名化処理を行ったもので、研究目的の範囲内で探索的研究を行うことが可能なデータ。詳細は、厚生労働省 平成26年度レセプト情報等の提供に関する日程等について 別添1 「サンプリングデータセットの概略について」参照のこと (http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000046173.pdf)
※9  奥村泰之、野田寿恵、伊藤弘人「日本全国の統合失調症患者への抗精神病薬の処方パターン:ナショナルデータベースの活用」臨床精神病薬第16(8)1201-1215
※10  飯原なおみ、吉田知司、岡田岳人、中妻章、桐野豊「わが国のナショナルデータベースが示した運転等禁止・注意医薬品の使用実態」医療薬学40(2):67-77
※11 稲垣中「精神分裂病における抗精神病薬の多剤併用に関する日本と諸外国の比」臨床精神薬理4:1381-1388
※12  1回の処方において3種類以上の睡眠薬、4種類以上の抗うつ薬又は4種類以上の抗精神病薬を投与した場合を指す
※13 厚生労働省 平成25年度第1回厚生科学審議会 疾病対策部会「参考資料」平成26年1月30日(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000036245.pdf)
※14 厚生労働省 第12回小児特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会「参考資料1」平成26年1月31日(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000036372.pdf)
※15  藤森研司、松田晋哉「医療計画のためのNational Database 活用の実際」社会保険旬報 2493:12-19,2494:16-24
※16 社会保障制度改革国民会議「社会保障制度改革国民会議報告書」平成25年8月6日(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokuminkaigi/pdf/houkokusyo.pdf)